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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)2614号 判決

一 請求原因1の事実(原告と被告らの営業)については、原告と被告大西賢、同福本刃物との間では争いがなく、原告と被告岐阜グランドとの間では、原告本人尋問の結果によつて原告が家庭用刃物の卸販売及び輸出を業とする会社であることを認めることができ、その余の事実については争いがない。

二 請求原因2の事実(原告の商標権)については、原告と被告大西賢、同福本刃物との間では争いがなく、原告と被告岐阜グランドとの間では、成立に争いのない甲第一五、第一六号証、原告代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により右事実を認めることができる。

三 そこで、次に、請求原因3の事実(被告らの不正競争行為)について検討する。

1 成立に争いのない乙第八、第九号証、丙第三号証、証人田中祥司の証言により真正に成立したものと認められる甲第一号証の一、二、原告代表者本人尋問の結果と弁論の全趣旨により昭和六一年八月一一日頃原告製品を撮影した写真であると認められる検甲第一ないし第三号証、証人田中祥司、同西田昌弘、同奥田一明、同尾口勝美の各証言、原告、被告福本刃物、同岐阜グランド各代表者本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 原告はかねてより家庭用刃物の国内向け卸し販売のほか、主として中近東及び東南アジア方面にキツチンナイフ等の家庭用庖丁類を輸出しているが、これらの刃物類は原告が関市の刃物製造業者である訴外奥田刃物株式会社(以下「奥田刃物」という。)や尾口刃物に発注して製造させるものであり、これを自社製品として輸出、販売しているものである。そして、原告は、遅くとも本件商標権(一)を譲り受けた昭和四七年頃から本件商標(一)を、さらに遅くとも昭和五〇年代初め頃からは原告標章を、右輸出用キツチンナイフの商標として使用してきた。

(二) 原告は、クウエート向けの輸出に関しては、かつては訴外東栄貿易株式会社を代理店としていたが、昭和五九年頃からはタナカコーポレーシヨン(ただし、同社の会社設立は昭和六〇年であり、それまでは同社の代表者の訴外田中祥司個人との取引)を代理店とし、昭和五九年一〇月一六日には、同社との間で、同社が向こう二年間キツチンナイフを含む商品を独占的にクウエートに輸出し、年間一億円以上の取引をすることを内容とする代理店契約を締結した。また、同社は右同日クウエートのアル・カンダリの経営するサデイツク・ストアとの間で、向こう二年間原告商品を同国ではすべてサデイツク・ストアに販売し、年間五〇万ドル以上の取引をする旨の代理店契約を締結した。

(三) 財団法人日本金属洋食器検査協会関事業部の検査実績の統計では、昭和五九年の同事業部の検査実績によるクウエート向けの輸出実績は、キツチンナイフを含む「その他の調理用ナイフ」が七万八〇〇〇ダース余、金額にして一億一六〇〇万円余である。しかるところ、原告がこれまでに行つてきた原告標章を付したキツチンナイフのクウエート向け輸出額は、年間五〇〇〇万円程度であり、前記タナカコーポレーシヨンとの代理店契約締結後八か月位の間にも同キツチンナイフを約五〇〇〇万円分右タナカコーポレーシヨンを通じてクウエートに輸出した。

(四) しかるところ、原告や被告のような販売会社が関市地方の刃物製造業者に発注したキツチンナイフは、通常、次のようにして製造される。すなわち、右ナイフの製造は、通常、約一〇工程位に分けられ、右発注を受けた刃物製造業者は、刃体本体は自ら製造するが、刃体への標章の印刷、ハンドルの取付、刃体を納めるスリーブの製造、スリーブへの標章の印刷等は自らは行わず、下請業者等に外注して行うのが通例である。そして、右刃物製造業者から下請業者等に外注された製造工程の中では、取引主体として原告の名前が出されることはなく、単純に右刃物製造業者と下請業者等間の取引として行われるのが一般である。

(五) また、関市の刃物製造業者が輸出用に製造しているキツチンナイフ類には、原告標章と同じくシエフの絵姿と英文字とを組み合わせたものが多く、シエフの絵姿としては、原告標章のように庖丁を手にした横向きのシエフを描いたものもいくつか使用されており、英文字としては、被告標章の「Kitchen Expert Super Chef」のほか、例えば、「Kitchen Chef」、「Kitchen Expert Vanadium」、「Kitchen Master Vanadium」、「CHEFMASTER」等の文字が使われている。

2 以上の事実によれば、原告標章を付して原告が輸出していたキツチンナイフは、少なくとも前記協会の関事業部を経由してクウエートに輸出されたキツチンナイフの中では相当のシエアを占めていたものということができる。そして、かかる事実や原告が昭和五〇年代初め頃から原告標章を使用してきていること、しかも原告標章の中には原告がさらにそれ以前から使用していた本件商標(一)と同一の称呼、観念を生ずる「Super Doll」なる文字が含まれていること等の事実を参酌すると、中近東方面への輸出用のキツチンナイフに付された原告標章が、昭和六〇年頃には、原告の商品表示としての機能を果していたことは明らかであるといえるし、右の原告商品のシエアからみると、原告標章は、少くとも、キツチンナイフを中近東方面に輸出する関地方の刃物製造業者等の間では、原告の商品表示として相当知られていたのでないかということは考えられる。

しかし、他方、前示のとおり、刃物製造業者から下請業者等に外注された製造工程の中で、取引主体として原告の名前が出されることはなく、単純に右刃物製造業者と下請業者等の間の取引として行われるのが一般であることや原告が原告標章を付したキツチンナイフについて特に我が国内において宣伝広告に力をいれていたというような事実を認め得る証拠もないこと等を考慮すると、例え、その地域を関地方に限つてみても、原告から直接注文を受ける前示奥田刃物や尾口刃物は別として、それ以外の刃物製造業者等が原告標章を原告の商品表示としてどの程度認識していたのかその周知性については疑問が残るといわざるをえない。少なくとも、この点に関し、さらに的確な立証がなされない限り、原告標章を不正競争防止法一条一号にいう「本法施行ノ地域内ニ於テ広ク認識セラルル」商品表示と断じるには、いささかちゆうちよされるものがあるといわざるをえない。

3 よつて、原告の不正競争行為による損害賠償の請求は、その余の判断をするまでもなく理由がなく、排斥を免れない。

四 次に請求原因4(被告らの商標権侵害行為)について検討する。

1 前記二の事実によれば、本件商標権(二)が登録になつたのが昭和六〇年八月二九日であることは明らかである。そして、請求原因4によれば、原告が主張する被告らの商標権侵害行為の最後の時期が昭和六〇年六月頃であることも明らかである。そうすると、右侵害行為が本件商標権(二)の登録以前のことであることも原告の主張自体から明らかである。しかるところ、商標権が設定の登録により発生することはいうまでもないから(商標法一八条一項)、原告の商標権(二)の侵害に関する主張は、主張自体失当というほかない。

2 そこで、以下、本件商標権(一)の侵害について検討する。

(一) 原告は、被告らが共謀して原告標章を付したイ号商品を(1)昭和五九年一〇月頃三〇〇〇ダース、(2)昭和六〇年三月頃六〇〇〇ダース、(3)同年六月頃四〇〇ダースの合計九四〇〇ダース製造、輸出して、本件商標権(一)を侵害した旨主張する。

(二) しかるところ、原告標章は、本件商標(一)と同一の称呼、観念を生ずる「Super Doll」なる文字を含むものであり、本件商標(一)に類似するものであるといえる。すなわち、原告標章の英文字の部分のうち、「Kitchen Expert」の部分は、前示のとおり他の業者の商標にも使用されているものであり、原告標章の特徴的な部分とはいえない。また、最下段の「HIGH-CLASS STAINLESS STEEL Japan」と小さく表示してある部分は、製品の品質、原材料、産地を示す表示にすぎないことが明らかである。したがつて、原告標章において識別性を有する部分は「Super Doll」の部分であり、右部分が原告標章の要部であるといえる。しかるところ、右部分から「スーパードール」という本件商標(一)と同一の称呼、観念を生じることは多言を要しない。そして、前記三に判示したところに照らすと、原告標章は、原告の商品表示としての機能を果たしているものであり、自他商品の識別機能を有するものであるといえる。

また、イ号商品であるキツチンナイフが本件商標権(一)の指定商品である利器及び尖刃器に属することは明らかである。

したがつて、被告らが、原告標章を付したイ号商品を製造して引き渡したり輸出したりすることは、原告標章を付した原告商品との出所の混同を生じさせ、本件商標権(一)を侵害することになると認められる。

(三) ところで、原告が主張する前記(一)の(1)ないし(3)のうち、(3)の四〇〇ダースについては、被告大西賢、同福本刃物においては、被告大西賢が被告福本刃物から買い受けたイ号商品四〇〇ダースをクウエートに輸出したことを認め、被告岐阜グランドにおいても、同被告が昭和六〇年六月に被告福本刃物からキツチンナイフの刃体の印刷の注文を受け、誤つて原告標章を印刷したキツチンナイフ(すなわちイ号商品)四〇〇ダースを引き渡したことがあることは認めている。しかし、右四〇〇ダース以外の分については、以下に述べるとおり、被告らがイ号商品を製造してクウエートに輸出した事実を認めることはできない。すなわち、

(1) 原告代表者本人尋問の結果中には、昭和五七年頃よりアル・カンダリからクウエート国内で原告商品の類似品が出回つていると聞いたことがあり、昭和六〇年五、六月頃には、クウエートに出張した際に、地元でキツチンナイフ等を販売しているナキという人物から、「原告商品のキツチンナイフと全く同じ物(原告標章の付された物)を日本から昭和五九年八月に三〇〇〇ダース注文して買い、それがすぐ売れたので同年一一月に六〇〇〇ダースを注文して昭和六〇年三月に入荷した。こちらへ輸出した日本の業者は被告大西賢である。」と聞き、現地のスーパーマーケツトやデパートで原告標章を付してはあるが原告商品でないキツチンナイフが売られているのを確認し、ナキからは輸入の関係書類も見せてもらつたとの供述部分がある。また、前掲証人田中の証言中にも、原告商品のクウエート向け輸出に関する代理店の経営者である同人も昭和六〇年一〇、一一月頃クウエートでナキに会つて前記と同様の話を聞き、関係書類を見せられた旨の供述部分がある。

しかし、これらの供述部分は、大西賢が原告標章と同じ商標のキツチンナイフ(すなわちイ号商品)九〇〇〇ダースをクウエートに輸出したとの点はナキからの伝聞であり、その証明力はおのずから低いものといわざるを得ず、右供述を客観的に裏付ける書証も提出されていない。

(2) 一方、被告らは、前記四〇〇ダース以外のイ号商品の輸出を否認しているところ、前掲証人西田(その証言により昭和六〇年当時被告大西賢の取締役で輸出責任者であつたことが認められる。)、被告福本刃物、同岐阜グランド各代表者本人は、次のように供述している。すなわち、

(イ) 被告大西賢は、昭和六〇年五月初旬頃、クウエートのスレシユ・グプタに被告福本刃物から見本として貰い受けていた被告標章入りのキツチンナイフを示して交渉したところ、同人から同人が同国のアル・フライジに販売するキツチンナイフとして、右見本と同じものを欲しいといわれ、

「Kitchen Expert Super Chef」

のブランドのキツチンナイフすなわち被告標章の入つたキツチンナイフ四〇〇ダースの注文を受けた。

(ロ) そこで、被告大西賢は、被告福本刃物に対し右キツチンナイフ四〇〇ダースの製造、販売を注文し、右被告らの間で、納期は昭和六〇年六月二〇日、納入場所は大阪市港区の辰巳商会安治川N号保税上屋、代金は八二万五四〇〇円とすることを合意した。

(ハ) 被告福本刃物は、右約定に従い、注文を受けたキツチンナイフの製造をするため、約一〇工程ある製造の各工程を各下請業者に請け負わせたが、刃体に商標を印刷する工程については、被告標章を付したスリーブ付の見本を示して被告岐阜グランドに注文し、刃付け工程まで終わつたキツチンナイフ四〇〇ダースを引き渡した。

(ニ) ところが、被告岐阜グランドは、同じ頃、関市の刃物製造業者である尾口刃物からキツチンナイフに原告標章を印刷する注文も受けていたため、同被告の従業員が被告福本刃物から引き渡しを受けていたキツチンナイフに商標をスクリーン印刷する際、誤つて尾口刃物から注文されていた原告標章の方を印刷して、被告福本刃物に引き渡した。

(ホ) 被告福本刃物は、被告岐阜グランドから引き渡しを受けたキツチンナイフ四〇〇ダースを、印刷された商標が注文のものと違うことに気付かないまま、さらに下請業者に渡して刃をスリーブに入れる等の工程を経て、洋食器検査協会の検査を受けた上、約定どおり安治川保税上屋で被告大西賢に引き渡した。

(ヘ) 被告大西賢からの被告福本刃物に対する前記キツチンナイフ四〇〇ダースの注文に際しては、商品の船積み前に先発見本を提出する約定になつていたが、現実には船積み前に先発見本が届かなかつた。被告大西賢は、右引渡しを受けたキツチンナイフ四〇〇ダースを、改めて中身を確認しないまま、同じくスレシユ・グプタから注文を受けていた他の商品と共に、船積みしてクウエートに輸出した。

(ト) その後、被告大西賢は、遅れて届いたキツチンナイフの見本を確認して、刃体の商標の印刷が間違つていたことを知り、被告福本刃物に連絡して印刷のミスであることが判つたので、クウエートのスレシユ・グプタにその旨の書簡を送つたが、先方からは特に異議の申し出はなかつた。

(チ) 被告らが原告商標を付したキツチンナイフにかかわつたのは、以上の一回だけである。

(3) 以上の証人西田昌弘、被告福本刃物、同岐阜グランド各代表者本人の供述に沿う証拠として、証人西田の証言により真正に成立したものと認める乙第一号証(注文確認書)、第四号証(送り状)、第五号証(船荷証券)、第六号証(書簡)、同証人の証言により原本の存在と成立の真正を認める乙第二号証(注文書)、被告岐阜グランド代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認める丙第二、第四号証(同被告の売上帳)には、前記の供述に沿う内容の記載がある。また、尾口刃物が昭和六〇年六月頃被告岐阜グランドに対しキツチンナイフに原告商標を印刷することを注文していたことについては、右丙第四号証のほか、証人尾口勝美も、当時、尾口刃物が原告から原告標章を付したキツチンナイフの製造の注文を受け、刃体に同標章を印刷することを被告岐阜グランドに依頼していた旨供述している。さらに、証人羽田野道明の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一七号証、乙第三号証によれば、被告福本刃物が被告大西賢から発注を受けた前記スーパーシエフ商標のキツチンナイフ四〇〇ダースの分のスリーブについては、昭和六〇年六月八日被告福本刃物が訴外羽田野紙器工業株式会社に納品させていたことが認められる。もつとも、甲第一七号証及び乙第三号証は、いずれも昭和六〇年六月八日付けの羽田野紙器工業株式会社作成の被告福本刃物宛納品書であるところ、後者(乙第三号証)には品名欄に「キツチンエキスパート スーパーシエフスリーブ」と記載があり、その数量が四サイズ各一二〇〇個(一〇〇ダース)余であるのに対し、前者(甲第一七号証)には品名欄に「キツチンエキスパート スリーブ」とあり数量が乙第三号証と同じもののほか、「関蔵スリーブ」という品名のもの一万五〇〇〇個の記載があるので、このように記載の異なる同日付けの納品書二通が存在するのはなぜなのかとの疑問が一応生じる。しかし、前掲証人羽田野の証言に照らすと、甲第一七号証の「キツチンエキスパート スリーブ」の品名のものはスーパーシエフ商標のものであることに相違なく、「関蔵スリーブ」というのは、それとは別の「関蔵」というブランドのキツチンナイフ用のスリーブであり、いずれも原告商標とは違うものであることが認められるし、乙第三号証については、本件訴訟の資料として被告福本刃物から提出を求められて、もとの納品書である甲第一七号証に基づいて羽田野紙器の従業員が関係ある部分だけを抜き出して、品名を補充して作成した可能性のあることが推認される。したがつて、右甲第一七号証と乙第三号証の上記記載の食い違いは、前記の証人西田、被告福本刃物、同岐阜グランド各代表者の各供述に疑問を抱かせるほどのものではない。

(4) なお、前掲証人尾口の証言中には、キツチンナイフに商標を印刷する際にミスが生じたとしても、その後の工程や洋食器検査協会の検査で気付くはずだし、福本刃物が同種の製品を大量に製造しているとの噂を聞いたことがあるとの趣旨の供述部分がある。しかし、右のうち被告福本刃物が同種の製品を大量に製造しているとの点については、右供述でも同種の製品というのは「スーパーシエフ」の商標を付したキツチンナイフのことを指していると受け取れる余地もあり、仮に、イ号商品のこととしても単なる噂にすぎない。また、印刷ミスがあつても当然気付くはずだとの点は、確かに前記のようなキツチンナイフの製造から船積みまでの手順に照らせば、同証人が指摘するとおり印刷ミスが起こつても船積みされるまでの間に気付く可能性は十分あるはずであると考えられるが、他面、同証人の証言によつても、右のような印刷ミスが看過されて輸出される可能性が全く否定されるわけでもない。

(5) 以上のとおり、原告の主張に沿う趣旨の証人田中及び原告代表者の供述についてはその裏付けとなる客観的資料が提出されていないのに対し、被告らの主張に沿う証人西田、被告福本刃物、同岐阜グランド各代表者の前記供述には、一応これを裏付ける証拠もあり、その信用性をたやすく否定することはできない。

結局、本件にあらわれた全ての証拠を検討しても、被告らが前記四〇〇ダース以外にもイ号商品を製造してクウエートに輸出したことを認めるのに十分な証拠はないものといわざるをえない。

(四) 以上の認定、判断によれば、被告大西賢はイ号商品四〇〇ダースをクウエートに向けて輸出(引渡し)し、被告福本刃物は被告大西賢からの注文により右イ号商品四〇〇ダースを製造して引き渡し、被告岐阜グランドは被告福本刃物からの注文によりイ号商品に原告標章を付する行為(印刷)によつて、本件商標権(一)を侵害したことになるというべきである。

そして、右四〇〇ダースのキツチンナイフの製造、輸出についていえば、それを被告らが共謀して行つたものとまで認めるに足る証拠はないが、被告らの主張に沿う前掲各証拠に照らすと、それは、もともと、被告大西賢が被告福本刃物から見本として貰い受けていた被告標章の印刷されたキツチンナイフを示してバイヤーから注文を受け、右見本と同じキツチンナイフの製造を被告福本刃物に発注し、さらに右発注を受けた被告福本刃物が、被告岐阜グランドに右標章の刃体への印刷を下請けさせたことから始まつたことであると認められる。それは、製造業者が全く独自の立場で製造した物を、それぞれ独立の立場にある卸売業者、小売業者が、順次、購入、販売した場合とは異なり、右標章を付したキツチンナイフの製造ということで当初から結び付いた行為であり、互いに関連共同する行為であるということができる。

そして、本件の場合、被告岐阜グランドが間違つて右被告標章ではなく原告標章を印刷したことから(そのこと自体は被告岐阜グランドも認めているところである。)前示本件商標権(一)の侵害という結果を招いたものであるが、右結果を招いたことについて、被告岐阜グランドに過失のあつたことは明らかであり、被告大西賢及び被告福本刃物については、過失があつたものと推定される(商標法三九条、特許法一〇三条)。

しかるところ、被告大西賢及び同福本刃物は、右侵害行為につき過失がない旨抗弁するので検討する。

前掲被告らの主張に沿う各証拠によると、右被告らが無過失の抗弁の項において主張する事実は認められる。しかし、そうだとしても、結局、右キツチンナイフを製造した被告福本刃物にしても、これを輸出した被告大西賢にしても、いずれも右キツチンナイフの刃体の印刷が注文どおりになつているかどうかを確認せず、右印刷ミスに気付かないまま引き渡したものであり、右確認が不可能であつたことを認めさせるに足る証拠もないから、右被告両名とも本件商標権(一)を侵害したことにつき過失がないとはいえない。右被告らの無過失の主張は採用できない。

(五) 以上によれば、被告らは、共同不法行為者としてそれぞれ本件商標権(一)の侵害行為により原告が被つた損害を賠償する責任を免れないというのが相当である。

五 そこで、以下、請求原因5(原告の損害)のうち商標権の侵害に関するものについて検討する。

1 まず、原告は、被告らは商標権侵害の輸出行為により輸出したキツチンナイフ一ダース当たり二九〇円の利益を上げたはずであり、原告はこれと同額の損害を被つた旨主張する。

(一) 原告が、かねてより原告標章を付した原告商品を中近東方面へ輸出していること前示のとおりである。

(二) しかるところ、前掲乙第一、第二号証、丙第二号証、前掲証人西田の証言、被告福本刃物、同岐阜グランド各代表者本人尋問の結果によれば、被告大西賢が前記のとおりクウエートのスレシユ・グプタに売り渡したイ号商品四〇〇ダースの代金額は合計三六七九米国ドル(一ダース当たり、五インチのもの七・一二ドル、六インチのもの八・七二ドル、七インチのもの九・七〇ドル、八インチのもの一一・二五ドル、各一〇〇ダース)であり、被告福本刃物が被告大西賢に販売した右イ号商品の価額は合計八二万五四〇〇円(一ダース当たり、五インチのもの一六〇〇円、六インチのもの一九六〇円、七インチのもの二一七二円、八インチのもの二五二二円)であること、また被告岐阜グランドが被告福本刃物から右イ号商品四〇〇ダースの刃体の印刷を請け負つて得た工賃は二万九〇二八円であることが認められる。

(三) そして、本件証拠上、被告大西賢がドル建で得た輸出代金を正確に日本円に換算できる資料はないが、弁論の全趣旨により成立を認むべき甲第九号証によれば、昭和六〇年四月頃の為替レートは一米国ドル二四五円であつたと認められる。しかるところ、被告大西賢の輸出価格は前示のとおり三六七九米国ドルであるから、これを右為替レートによつて換算すると九〇万一三五五円となる。一方、被告大西賢が被告福本刃物に支払つた代金は八二万五四〇〇円であるから、右為替レートを前提とすれば、その差額七万五九五五円が、被告大西賢が前記イ号商品四〇〇ダースを輸出して得た粗利益ということになる。

(四) また、前掲証人尾口の証言によれば、昭和六〇年当時、関市の刃物製造業者がイ号商品と同程度の品質のキツチンナイフを製造するのに要する原価(印刷代も含む)は五インチのもので一一〇〇円ないし一二〇〇円、六インチのもので一三五〇円、七インチのもので一四一〇円、八インチのもので一四七〇円程度であつたことが認められる。これを前示被告大西賢への販売価格と対比してみると、その間に少いもので四〇〇円、多いものでは一〇五〇円余の差があることが明らかである。

右事実を前提とすると、他に特段の反証のない本件においては、被告福本刃物は、前記イ号商品四〇〇ダースを被告大西賢に販売したことにより、純利益として原告主張の一ダース二九〇円程度の利益を得たものと推認することができるというのが相当である。

そうすると、被告福本刃物は、右侵害行為により一一万六〇〇〇円の利益を得たものということができる。

(五) しかし、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告が原告標章を付したキツチンナイフを輸出することにより得ていた利益は、粗利益にしても一ダースにつき二五〇円ないし三〇〇円平均二七〇円程度にとどまつていたものと認められる。

(六) 以上の事実に照らし考えるに、原告の主張は、商標法三八条一項の推定規定を援用して被告らが得た利益と同額の損害を請求するものであると解される。そして、他に特段の主張のない本件においては、そのこと自体を許されないものとすべき理由はないから、右推定規定に従つて原告の損害を算定することになるというべきである。しかし、そうだとしても、原告が前示四〇〇ダースの取引を自から行つた場合であつても、これによつて得られる利益は、前示のとおり、せいぜい一ダース平均二七〇円程度(四〇〇ダースで一〇万八〇〇〇円程度)のものにすぎないと認められることを参酌すると、原告が右規定を援用して請求できる損害賠償額は、被告三名の前示各利益の合算相当額ではなく、被告福本刃物の利益相当額一一万六〇〇〇円を限度とすると解するのが相当である。なぜなら、それ以上の損害を認めることは、本訴における当事者の主張との関係上右推定規定の適用を前提とすることにならざるをえないとはいえ、あまりにも大きく前示原告の得べかりし利益を超える損害を認定することになり、不当であると考えられるからである。

2 次に、原告が主張する注文解除に伴う損害について検討する。

原告代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第二号証、前掲証人田中の証言、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は、昭和六〇年九月頃アル・カンダリから、クウエート国内において他にも原告商品と同一ないし類似したキツチンナイフが出回つているとして抗議を受け、その後アル・カンダリからタナカコーポレーシヨンに対してキツチンナイフの注文が来なくなつたことが認められる。

しかし、右証人田中及び原告代表者本人の各供述によつても、アル・カンダリがタナカコーポレーシヨンとのキツチンナイフの取引を止めたことについては、イ号商品が出回つたということだけでなく「Super Chef」の商標すなわち被告標商を付したキツチンナイフがクウエートにおいて出回つたことも原因になつていることが窺われる。しかるところ、原告標章の周知性との関係で、被告標章を付したキツチンナイフの製造、販売を直ちに違法とまでいえないことは、前示のとおりである。しかも、イ号商品の製造、販売についても被告らが関与したものと認め得るのは、前示の四〇〇ダースだけであることからすれば、仮に、タナカコーポレーシヨンがアル・カンダリとの取引の中止を余儀なくされて原告主張のような損害を被り、原告がそれを填補すべき義務を負担しているとしても、そのことが被告らによる右四〇〇ダースのイ号商品の輸出と因果関係があるとは断定できない。

したがつて、原告の右主張は失当である。

3 さらに、原告主張の信用毀損による損害について考えるに、原告は前記のとおり、原告標章を付したキツチンナイフすなわち原告商品を代理店のタナカコーポレーシヨンを通じてクウエートのアル・カンダリに継続的に輸出してきたことは前示のとおりであり、その意味でアル・カンダリとの間に取引上の信頼関係を築いてきたものということができる。また、被告らが過失によるとはいえ、原告商章を付したイ号商品を輸出したことも前示のとおりである。

しかし、これまでに原告がアル・カンダリとの間に行つてきた右原告商品の取引高は、年間五〇〇〇万円に及ぶものであるのに対し、本件証拠上、被告らによつて行われたと認め得る右イ号商品の輸出は数量にして四〇〇ダース、金額にしてせいぜい九〇万円余(為替レートの関係で多少変動があるとしても、一〇〇万円程度にとどまるものと推認される。)のものにすぎないことも、既にみてきたとおりである。このような原告商品の取引高とイ号商品の輸出高を対比してみると、果たして右イ号商品の輸出によつて原告主張のような値くずれやストツクが発生したといえるのかどうかは疑問であるといわざるをえない。原告が主張する右値くずれやストツクの発生は、その主張に係る九四〇〇ダースのイ号商品の輸出を前提とするものであるが、本件証拠上、右九四〇〇ダースのイ号商品の輸出を認め得ないことは既述のとおりである。

結局、被告らによる四〇〇ダースのイ号商品の輸出が、原告とアル・カンダリとの取引になんらかの影響を及ぼしたことは否定できないとしても、それによつて原告主張のような値くずれやストツクが発生したとは断定できず、前示財産的損害の他にそれによつては填補できない程の信用毀損による損害が発生したとは断定できない。

六 以上のとおりとすると、原告の請求は、被告らに対し、金一一万六〇〇〇円及びこれに対する不法行為の後で訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六一年四月一日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないというべきである。

よつて、原告の本訴請求を右理由のある限度で認容し、その余を棄却する。

〔編注1〕本件における原告の商標権は左のとおりである。

原告は、左記(一)及び(二)記載の商標権(以下、(一)の商標権を「本件商標権(一)」、その登録商標を「本件商標(一)」と、(二)の商標権を「本件商標権(二)」、その登録商標を「本件商標(二)」という。)を有している。本件商標権(一)については、原告は、昭和四七年四月一五日、前権利者(出願人)の訴外スーパードール株式会社から譲渡を受け、同年八月一〇日その旨の登録を了したものである。

(一) 登録番号  第〇六三四五〇〇号

出願日   昭和三五年一月二五日

公告日   昭和三五年一〇月三一日

登録日   昭和三九年一月一七日

更新登録日 昭和五九年一〇月一九日

指定商品  昭和三九年当時の商品区分第八類、利器及び尖刃器

登録商標  別紙(一)記載のとおり

(二) 登録番号 第一八〇一一九〇号

出願日  昭和五七年五月一九日

公告日  昭和五九年一二月二四日

登録日  昭和六〇年八月二九日

指定商品 第一三類、手動利器、手動工具

登録商標 別紙(二)記載のとおり

〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。

商標出願公告 昭35―24651

連合商標願書番号 昭34―26022

指定商品8 利器及び尖刃器

別紙(一)

<省略>

商標出願公告 昭59―102993

指定商品13 手動利器、手動工具

別紙(二)

<省略>

別紙(三)

<省略>

別紙(四)

<省略>

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